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不動産豆知識

決済期限を延長した際、融資特約期日については延長の合意をしておらず、融資特約は効力を失ったとされた事例

 自動消滅型融資特約のある売買契約につき、解除期日経過後の覚書によって売買代金支払時期が延長されたが、融資特約による解除期日が延長されたとは認められず、当初契約の融資特約は効力を失ったとして、買主の融資特約適用による手付金返還請求を棄却した事例

 

1事実の概要 

令和2年7月22日、売主X(原告・宅建業者)は、収益物件建築目的で本件土地につき買主Y(被告・個人)と次の内容の売買契約を締結した。

 

ア)売買代金 1億4,500万円

イ)手付金  700万円

ウ)支払時期 9月30日

エ)違約金  1,450万円

オ) 融資特約「8月21日までに融資の全部または一部について金融機関の承認を得られないときは、本件契約は自動的に解除となる。その場合、売主は買主に受領済金員を遅滞なく返還する。」 

 

なお、本件売買契約には、売主X側の媒介業者としてAが、買主Y側の媒介業者としてBがついていた。 

Yは2つの金融機関(甲銀行・乙信金)に融資を申し込んだが、内、甲銀行は8月中旬に融資否認となったため、8月17日頃、BはAに「乙信金からは承認される見込みであるが、支払期限の9月30日に間に合わない可能性があるので、支払期限、所有権移転・引渡し・登記申請の日を10月16日に延長して欲しい」との旨を申し入れた。 

その際、Bは、売主側が本件融資特約の延長について了承していないことを認識しながらそれ以上の交渉を行わなかった。他方、BはYに対しては、本件融資特約も同じように延長された旨を説明した。 

その結果、9月1日、支払い期限を10月16日まで延長する旨の覚書が締結されたが、当該覚書には融資特約期限に関する記載はなく、その点が話題に上ることもなかった。 

10月2日、乙信金からも融資否認の通知を受けたため、Yは、延長後の支払期限である10月16日、金融機関から融資の承認が得られなかったことを理由として本件契約を解除する旨をXに通知した。 

11月3日、Xは、Yに、残金支払いがなければ債務不履行解除のうえ違約金として手付金との差額750万円を請求する旨を通知した。

Xは、第一審訴訟(京都地判令4・7・1)において当該750万円の違約金支払を求め、Yは、反訴として融資特約適用による700万円の手付金返還を求めた。 

第一審訴訟においてYは以下を主張した。

①‌‌ 本件契約は8月21日の経過により自動的に白紙解除された。

②‌‌ もしくは、本件契約期限が9月1日付覚書によって10月16日に延長されたことにより、本件融資特約の期限についても10月16日まで延長され、同日の経過により自動的に白紙解除された。 第一審は、Xによる違約金請求を認容し、Yの請求を棄却したため、これを不満としてYが控訴した。

 

 

2判決の要旨 

控訴審(本件訴訟)においても、裁判所は次のように判示して、Yの請求を棄却した。

Yが8月21日までに金融機関から融資の承認を得られなかったことから、YがBに、本件契約の存続とともに本件融資特約の延長を希望したものの、これを受けたBは、Xが本件融資特約の延長を承認していないことを認識し、それ以上の交渉をせず、AとBは本件契約の支払期限等を延長することを確認し、その旨の覚書を作成することとしたというのであるから、XY間で本件契約の存続及び支払期限等の延長については合意が成立したものの、本件融資特約の延長については合意が成立していないことが明らかである。 

そうすると、本件融資特約は効力を失ったと評価され、本件契約が本件融資特約により8月21日又は10月16日の経過をもって自動的に解除されたとは認められない。 

これに対し、Yは、Yが金融機関からの融資で売買代金を決済することは当初から予定されており、Yが支払期限等についてのみの延長を希望しないことはXも十分認識していた旨主張する。しかし、Bは、7月末頃、Aに対し、Yは甲銀行の融資が否認されても、乙信金なら承認される見込みである旨を伝えていることや、Aは、Bに対して本件融資特約の延長を認めない旨を明確に伝えていることからすると、Yが乙信金から融資を受けて残代金を決済できる見込みがあるから、本件融資特約の延長は求めず、支払期限等の延長を求めることで足りるものとXが認識したとしても何ら不自然なこととはいえないから、XY間において本件融資特約を延長する旨の合意があったとみることはできない。

また、Yは、9月1日付覚書が本件融資特約の期限である8月21日より後である点を指摘するが、8月21日までに、XY間において、本件契約を存続させることを前提に支払期限等を延長することを確認したと認められ、本件覚書の作成自体が8月21日以降であるからといって、本件契約が本件融資特約により8月21日の経過をもって自動的に解除されることにはならない。 

そして、XはYに対し、11月3日、本件土地の引渡し等の準備が済んでいる旨を通知したうえで本件契約の残代金を11月13日までに支払うよう督促し、Yは同日までに支払わなかったのであるから、Xによる債務不履行解除によってYは本件契約に基づく違約金支払い義務を負う。

 

 

3まとめ 

本事案は、売買契約が存続することを前提に支払期限等が合意によって延長されるも、融資特約期限について延長する合意が認められないという事実認定の下では、当該融資特約は無効になるとした事例判断である。 

資特約には、解除条件型、解除権留保型など効力発生要件の相違や、各業界団体ひな形における表現の差異などがあるので、媒介業者としては特約内容を正確に理解し、売買当事者に説明することが重要である。 

本事案に類似する裁判例に「買主都合による決済期限の延長の際、明確な売主の期限延長の合意のない融資解除特約は効力を失ったとした事例」(東京地判令元・6・111RETIO118-114)があるので参考にされたい。

 

一般財団法人不動産適正取引推進機構「RETIO」より

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